前回の記事の続きです。
”恵まれすぎた環境は人間を怠惰にする”
チンパンジーにもこの方法を取り入れた。
UFOキャッチャーのような道具を作り、手間と時間をかけなければ、簡単に果物が手に入らないようにした。
意地悪をしているようだが、それでチンパンジーのイライラが落ち着いてきた。
考えてみれば野生動物はエサを獲るのが仕事みたいなものである。
生きること、そのものである。
しかし動物園ではなにもしなくても必ずエサが与えられる。
その結果、だんだんと生気を失っていく。
オリの中をウロウロと動き回ったり、自分の身体を傷つけたり、異常な行動が表れてきたり…。
特にすることもない恵まれた環境では、生き生きとした生気は失われ、逆にストレスがたまっていくのである。
この話は現代の子どもたちに通じるところがある。
物が豊富にあって、母親が十分に世話をしてやれる家庭では、つい与え過ぎの環境になる。
子どもの数が少ないから、つい手をかけ過ぎる。
汚れた服はすぐに洗濯し、きれいな服に着替えさせる。
食べ物はやわらかくておいしくて好きな物ばかり。
冷蔵庫にはジュースやアイスクリームがいつでも入っている。
待たせる、という事をさせない。
おもちゃも絵本もあって、DVDがあって、いつでも楽しむことができる。
退屈することがないのだ。
そして親の机はなくても、子どもには立派な勉強机がある。
父親の書斎はなくても、子ども部屋はある。
こういう恵まれた暮らしの中で、いったい子どもはどういう夢や目標を抱くのだろうか。
「将来のために、がんばって勉強しなさい」といわれてもピンとこないだろう。
昔のような物不足の時代には
「今は不自由だけど、がんばって勉強したら将来きっと豊かな生活ができる」
という希望を抱くことができた。
だからがんばろうと努力もできた。
遊ぶおもちゃがなければ自分で作った。
紙に双六を書いて、小さくなった鉛筆でさいころを作り、2~3時間は遊んだ。途中でルールを変えていく楽しみもあった。
今のおもちゃやゲームは遊び方が限られているものが多い。
ちがう遊びをしようと思えば、別の物を次々と買わなければならない。
私は決して貧乏や不自由を賞賛しているわけではない。
恵まれた環境に越したことはないが、恵まれすぎた環境は、かえって人を怠惰にする。
やがては健康を害する。
パンダやキリンの例がそれを教えてくれていると思う。
【引用終了】